移って当座は、別に変った事もなかったが、その頃私は常に夜の帰りが遅いので、よく弟や老婆の云うのは、十二時過ぎた頃になると、門から玄関へ来て敷石の上を、カラコロと下駄の音がして人でも来たかのような音がすると云うので、これは屹度、自分に早く帰らそうとしての事だと思っていたが、強ち、そうばかりでもなかったらしい、何をいうにもこんな陰気な家で、例の薄暗い仏壇の前などを通る時には、私にもあまり好い気持がしなかったが、何分安値くもあるし、賑かでもあったので、ついつい其処に居たのであった。

 古典は原語で読むことが、もちろん最上である。言語は思想表現の具であるから、著者の精神・気魄の繊細にして周到なる表現は著者自身の言語によるを最善とすること明かである。併しすべての読者に対し、古典をそれぞれの原語にて読むことを要求するは至難である。従って古典の翻訳は、古典そのものに次いで重要である。その翻訳は良訳でなければならぬ。又全訳でなければならぬ。悪しき翻訳は悪しき著述以上に有害であり、又部分訳は古典の精神気魄を伝うる上に於いて不十分である。

 不思議さのあまり呆然そこに佇んでいると、不意に背後から私の利腕をぐッと掴んだものがあります、愕いて振顧ると見も知らない男が私の方を睨みつけながら、ぐいぐい腕を引張ります。不意ではあり何のことだか夢のような心持で、抵抗いもせず扈いてゆくと、その男は私を蕗子の家の表口から連れこみました。
 すべてこの出来事が私にとって解けない謎だったのです。
 台所には蕗子の妹で十三か四になる艶子が、近所の内儀さんたち二三人に囲まれて、畳に打伏したまま潸々と泣いていました。

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